「気がついたらね、ベッドの中だった。それで、兄達が心配そうに覗き込んでたんだ」
 泣きそうなニティルの黒髪を、俺は優しくなでた。
「朝になっても帰ってこない俺を心配して、地下倉庫まで捜しに来てくれたらしいよ。すると、俺が廊下に倒れていたんだって。1番下の兄が教えてくれた」
 その時のことを思い出して、俺は笑みを浮かべた。
 あの時は、本当に面白かった。俺が目覚めると、兄達は血相を変えた。
 又、嫌味を言われるのかと身構えていた俺の目の前で、突然泣き出したんだ。
「兄達は、俺が死んでしまうって思ったらしい。その後しばらくは、俺に優しかったよ。何だか、気持ち悪かったけどね」
「軟弱だな」
 俺とニティルの頭の上に張り出した木の枝に腰掛けて、レグロが鼻を鳴らした。雪のように白い腕を組んで、金の瞳を細めている。
 その尊大な態度に、俺は思わず苦笑してしまった。
「そうだね」
「何を笑っているんだ」
 俺の態度が気に障ったのか、レグロは眉を吊り上げて身を起こした。レグロを見上げて、俺はわざと笑みを深くする。
「楽しかったからぁ」
「貴様」
「それでいいんだよ!」
 俺の膝の上で、ニティルが突然大声で叫んだ。
「リーフ笑ってる方がいいの! ニティル、レグロとリーフが笑ってたら、嬉しいよ」
「―――そっか」
「……ニティルが言うなら……仕方ない」
 レグロがぶつぶつ言いながら、木の枝にもたれなおした。
 ニティルは笑顔だ。
「だから、レグロも楽しく笑おう!」
「うるさい! できるかそんなこと!」
 本当に、いつもいつも、飽きないよなぁ。
 いつも楽しげなニティルと、いつも怒りっぽいレグロ。
 そして、2人のいつもの言い合いを眺めながら、ついつい俺は笑ってしまう。


 あの後、俺は地下倉庫に、例の不思議な本を探しに行ってみた。
 何日もかけて散々探してみたけど、結局、その本は見つからなかった。そして、今でもその本は発見されていない。
 あの不思議な出来事が、夢だったのか現実だったのか、知る術はなくなってしまった。

 でも、1つ分かったことがある。

 あれが、あの夢幻のようなひと時が、遠い昔の話だったってこと。
 あの人達が生きていたのは、実に500年も前だったってこと。

 ―――そして、もう1つ。


「つきあってられるか!」
 その時、ニティルの笑顔にたまらなくなったのか、レグロが木から飛び降りて、逃げ出した。
「わーい!」
 ニティルはそれを嬉しそうに追いかけていく。
 おっと、俺も追いかけなきゃ。俺は慌てて腰を浮かした。


 2人と旅をしていて、分かった。
 ……今になって、やっと分かった気がするんだ。
 あの時の、お兄さんの言葉の意味が。
 俺はおバカさんだったから、気づくのに随分かかってしまったけどね。

 ふと足元を見ると、小さな花が風に揺れていた。
 他の草木とは違って、頼りない。でも、一生懸命大地に根を張っている。
 俺は何となく、花に微笑みかけた。

 あの出来事が夢でも幻でも、別に構わない。
 それでも、俺は、今日も生きて行く。
 俺として、精一杯。


 このひとひらの花のように。


―― Fin ――





あとがき。
 こんばんは(朝や昼だったら御免なさい)。最後まで読んでくださって、ありがとうございました!
 この短編は『OUT SKIRTS』の海原嬢から頂いたお題、『一夜限りの幻想をあなたに。実際ではありえないペアでの小さな冒険(夢オチあり)』というお題から連想した、2006年クリスマス記念小説です。
 こんな素敵なお題から連想して書いたのですが、私の力ではここまででした……。(がくーん)
 しかも、あまりクリスマスっぽくなくなってしまいました。クリスマス記念なのに(笑)。
 第一稿には、『赤い花』やら、『木々を彩る光』やら、クリスマスっぽい言葉が羅列してあったんですが、お話の都合上、全て削除されました。(がーん) そんなサバイバルを潜り抜けて残ったのが『色鮮やかに光る花の種』です。しかし、すでにクリスマス色は欠片しか残ってません。
 ……ま、まぁ、クリスマスツリーの電飾っぽいってことで宜しくお願いします!(ぇ)

 この話の主人公『リーフ』は、蒼迷宮とは違う物語の登場人物です。彼は魔法剣士で、『ニティル』と『レグロ』という2人と一緒に、当ての無い旅をしています。
 実は彼は、私が初めて考えたお話のキャラで、なんと小学生の時から、十数年来の付き合いなのです!  そんな彼を、ようやく文章で表現できて嬉しい限りです。でも、第一印象ちょっとダークになってしまいましたね。すまん、リーフ(笑)。
 年がばれるので、どれくらいの付き合いか、詳しくは言いません。ご了承下さい(笑)。
 因みに、『お兄さん』は……まぁ、皆さんがご察しの通り、某冷淡主人公君です☆ 何か随分優しいですが、一応理由があるので、許してやってください(笑)。
 もし万が一、彼が誰か分からない方がいらっしゃいましたら、メールフォームにてお知らせ下さいネ★

 このお話を読んで、楽しんでもらえたなら幸いです。改めて、ありがとうございました!!

2006/12/27(水)月瀬結良


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