見たところ・知るところ


 最近、オレ・エンディにも旅の連れができた。しかも2人だ。
 この2人、2人が2人とも変なヤツでよ、そりゃ毎日、面白いのなんのって。
 今日は、そんな2人を紹介しようと思う。

 1人目は、ウィワス=ナレッグ。金髪碧眼で、めちゃくちゃきれいな顔をしているのに、男だ。
 うーん、もったいない。
 しかもこのウィワス……なんとあの伝説のウェヘル『暁の銀星』らしい。
 な、びっくりだろ!? オレ、伝説なんていうからさ、てっきり中年なんだと思ってたんだ、『暁の銀星』。
 だって、ランクを上げるには、それなりの努力と時間がいるもんだろ? けど、まさかこんなに若いとは……夢にも思ってなかったと言うか。
 なんと、19歳だぜ、ウィワス君! あの外見・態度からは全然考えられないしよ。

 そういや、この前、ウィワスに趣味とかあるのか? って聞いてみたんだ。
 そしたらさ……。




「ない」
「いやいやいやまてまてまて」
 さらっと言い放ってどこかに行こうとするウィワスを、オレは慌てて引き止めた。
「何だ」
 ウィワスはもの凄ぇ面倒くさそうに、オレの腕を振り払った。
「何かあるだろうよ? ひとつくらい楽しみがあっても、人生損しないと思うぜ!?」
「ないものはない、訳の分からん理屈をつけて強要するな」
「そういえば、ウィワスはいつも本を読んでいるよね」
 突然、予想外の方向から楽しげな声が飛んできた。庭に面した部屋の窓から、小さな頭がのぞいている。チェイサーヴだ。


 チェイサーヴ=ケルト、愛称はチェス。くるくるの金髪に真っ赤な目が印象的。こいつが、旅の連れ2人目だ。
 ちっちゃい体ながら、声の大きさと行動力は人1倍。世間知らずかと思いきや、時々、びびるくらい鋭いところを突いてくる、油断ならないお坊ちゃんだ。でも、まだまだ12歳なので、からかうと面白ぇ反応を返してくれる。


「ウィワスの趣味は読書ではないの? ボク、てっきりそうだと思っていたよ」
 窓枠に肘をついたチェスは、オレとウィワスを交互に見上げ、にこにこ笑った。
「お前、洗濯していたんじゃないのか」
「していたよ〜」
 ウィワスが睨むと、彼は照れたように苦笑した。
「でもね、えっと、少し問題が発生したんだよね……少しね」
「洗い桶でもひっくり返したの?」
 冗談交じりに問いかけると、チェス君はさっと顔をそむけた。

 ―――あれ、もしかして当たり?

 そういやぁ、髪の毛の先から水が滴ってる。タオルを取りにきたんだネ。
 オレは苦笑して、カバンから取り出したタオルをチェスの頭にぽんと置いた。
「チェス君……君って子は本当に期待を裏切らないよネ」
「ば、バカにするな!」
「バカだろう」
 ウィワスがばっさり切り捨てた。途端に、チェスは頬を膨らませる。
「違う!」
「違わない。大体、水の入っている洗い桶はとても重いはずだろう?」
「そうだけど!」
「その桶をひっくり返して、かつ、頭から水をかぶるなんて普通ではできない」
「でも……」
「桶の中に頭からつっこまない限りはな。どう考えてもバカだ」
 ウィワスがつらつらと理由を述べる。確かに正論なんだけど、何ていうか……。
 チェスも反論しようと頑張ってるけど、どう贔屓目に見てもチェスが劣勢。ほら、捨てられた子犬のような目になってきた。
「あぅぅ……」
 頭から垂れたタオルを握り締め、チェスは口を引き結んだ。
 あれ、泣きそう? 見かねたオレは、助け舟を出すことにした。
「だめヨ、ウィワス。あんまり子どもをいじめちゃ」
「エンディ! ボクは子どもではないよ!」
「えぇ!」
 思わぬところから反論がきた。当のチェスは、窓枠をばんばん叩いてむくれている。そうか。そういや、チェスって子ども扱い、嫌いだっけか。
 ま、でも、どっからどうみてもお子ちゃまなことには、変わりないけどね。
 苦笑するオレを見て、ウィワスがため息をついた。
「子どもじゃないらしいぞ。それなら何も問題ないだろう」
 おいおい、何だその理屈。オレは笑いを飲みこんだ。
 何ていうか、ウィワスってちょっといじわるだよなぁ。冷たいって言うか。付け入る隙がないって言うか。

「あ」

 その時、チェスが突然手を打った。
「ね、ウィワス。ウィワスはボクをバカにできないよ」
 怪訝な顔でウィワスがチェスを見下ろす。
「どういう意味だ」

「だって、ウィワスとボクが始めて出会った時、ウィワスは木から落ちてきたでしょう?」

「な……!」
「えぇ? 何?」
「寝ぼけて木から落ちたんだよ、エンディ。ボク凄く驚いたんだから」
 ウィワスが息を呑む。オレは思わず声を漏らした。チェスは髪の毛を拭きながら、得意げに喋り続ける。
「木の上などという不安定なところで寝ていたら、落ちるに決まっているよね。
 そんなウィワスも、ボクに負けず劣らず間が抜けているよ」
「……それは」
 ウィワスは、さりげなく視線を逸らした。お、もしかしてこれは?
 俺を見上げて、チェスは嬉しそうに笑った。
「ね? バカに出来ないでしょう?」
「……確かにね」
 笑をかみ殺して、オレは深々と頷いた。するとウィワスは眉を寄せ、搾り出すような声で呟いた。
「……悪かったな……」
 少しふてくされたように、ウィワスは俯いた。

 おぉぉ、珍しい。いつも完全無欠! って感じのウィワスが、何だかかわいく見えるゾ。

 オレはにやりと笑い、ウィワスの肩を軽く叩いた。
「ま、たまには言い負かされとけ? 人生楽しくなるからネ」
「何がだ!」
 オレの手を払いのけて、ウィワスはすたすた歩き出した。部屋の扉を開け、外に出て行く。音高く扉が閉まった。
 それを見送って、チェスがおろおろと頭を抱える。
「あ、ボク、ウィワスの気を悪くさせたかな……?」
「大丈夫デショ、あれはすねてる感じだし?」
 オレは苦笑して、窓枠にもたれかかった。
 タオル越しにチェスの頭をかるくなでると、チェスは眉間にしわを刻んだまま、オレを見上げた。
「図星だったんデショ、ウィワスもかわいいとこあるよネ」
「―――うん、そうだね」
 チェスがはにかんだ笑みを浮かべた。

 いつもはお子ちゃまだけど、そのときはちょっとだけ、大人びて見えた、かな。




 うん、最近はこんな感じで毎日すごしてる。
 イラつくこともあるけどさ、それも楽しかったりして。
 やっぱり、人って見た目に寄らないもんだなぁ、とか思ったりしたね。
 それが、仲間と旅する醍醐味だよな☆


 何か、何でもできちゃいそうな気になっちゃうな。
 たとえ、この先何があっても、ネ。

おしまい。




 まず、ここまで読んでくださった皆さんに、感謝と感激の雨あられを送ります!
 本当に読んでいただいてありがとうございました☆

 今回は、蒼迷宮―月の調、大地の韻律―のキャラクター、エンディが主人公のSSでした♪
 友達って(彼らが友達かどうかは疑問ですが……)、毎日つきあっていても1日1日違う面を見せてくれるので、時にびっくりしませんか?
 今回はそんな『新鮮さ』を感じていただけたなら、嬉しいです。


 と言うか、チェスのように洗い桶(もしくはビニールプール?)に顔から突っ込んだ人っているんでしょうか。
 もしいらっしゃったらご一報下さい(笑)。
2007/6/27(水)月瀬結良



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